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春日部市の社会保険労務士田口裕貴事務所〜労務管理・就業規則・給与計算・労働保険・社会保険・障害年金〜 対応地域:春日部市・越谷市・松伏町・杉戸町・宮代町ほか埼玉県全域、関東近郊

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社会法とは何か

 私は、学生時代から「社会法」というものを、メインテーマに研究しております。しかし、この「社会法」という言葉、なかなか聞きなれないという方が多いのではないでしょうか。そこで、まず、「社会法」という言葉自体を解説していきたいと思います。

 私の手元にある辞書で、「社会法」という言葉を引いてみました。例えば広辞苑では、「個人の利害・自由に基礎を置く市民法に対して、生存権・労働権・団結権など社会権の思想を基礎とする法。法域としては労働法・社会立法・経済法・社会保障法を含む。」とあります。また、百科事典マイペディアでは、「市民社会の個人主義・自由主義の法原理を修正し、社会公共の利益の実現を目的とする法。財産権の不可侵、契約自由の原則などを基本原理とする市民法に対比される。資本主義社会の矛盾・欠陥の克服を目指す労働法、社会福祉法など社会政策的立法をさす。狭義には社会保障法のみをさす。」とあります。さらに、法律用語を調べるには大変便利な法律用語辞典には、「所有権の絶対、契約時湯の原則などを基本原理とする市民法を修正・補充する意味をもつ法であるとか、労働法を中核とする社会政策立法の意に解されるとか様々な説があるが、確立した定説はない。」とあります(法令用語研究会編『法律用語辞典(第3版)』(有斐閣、2006年)648頁)。

 なんだかわかったようなわからないような説明ですが、簡潔に述べると「市民法原理を修正する法である」といえるのではないかと思います。では、市民法とは何かということですが、これは私法の体系をさすと解釈してよろしいものと思います。


 日本の法律は、とある見方から大別すると、公法と私法というものに分けられます。細かい学説はたくさんあるのですが、ざっくりわけるとこの2つになるのです。公法とは、「国家や地方公共団体の組織や活動に関する法」のことであり、私法とは「個人間の私的な生活関係を規律する」法のことです(末川博編『新版法学入門』〔有斐閣、昭和60年〕41頁)。

 例えば公法に該当する法としては、憲法や刑法、訴訟に関連する法律、行政法などがあります。これらは、国と個人の関係を規律したり、個人が法を犯した場合に国が罰を課すといったこと、法的な争いをするための手続に関するもの、国の活動などに関連するものなどがあります。なるほど国家や地方公共団体の組織や活動について規定がなされております。

 一方で私法に該当する法としては、民法や商法などがあります。こちらは、人と人との関係を規律しているものです。民法は、「私人の日常生活(社会生活)に関する法であり、主として私人の財産関係と家族関係を規律する」とあります(伊藤正己・加藤一郎編『現代法学入門〔第4版〕』〔有斐閣、2007年〕)。例えば、民法555条では売買に関する規定が置かれており、「売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」とあります。日常生活で、例えばコンビニでおにぎりを買うときに「民法555条の規定に従って、このおにぎりに関する売買契約を締結したいのですが、いかがでしょうか」などと言う人はまずいないとは思いますが、実は法律で規定が置かれていたりするのです。

 では、なぜこうした私法の規定が必要かということですが、個人と個人の取引や、一方又は双方が会社などでも良いのですが、何かの取引をするにあたって、もめごとが発生したりすることがあるからです。たとえば先ほどのおにぎりですが、「鮭」と書いてあったのに中身が「昆布」だったりしたら、怒る人がいるかもしれません。場合によってはお店に抗議して交換してもらうかもしれません。こうしたことも、実は民法で書いてあるのです。

 もっとも、私法の大原則に「契約自由の原則」というものがあり、どんな契約を結ぼうが、民法にない契約類型を作り出してそれを当事者どうしの合意によって締結させようが、問題ないのです。ただし、強行法規(かならず守られなければならない法)に違反することはできず、公序良俗に違反する契約(例えば、スナイパーに殺人を依頼する契約)などは締結することができません。しかし、こうした特殊な例外を除いて、普通の取引行為は自由に行いうるのです。これは、対等で平等な私人どうしでの契約が前提とされており、当事者間でのやりとりによって、契約内容などを当事者で決めていけるであろうから、そこに国家は(過剰には)干渉しないとしたものなのです。


 ここまで公法と私法の説明ですが、かつては、この2種類だけでとりあえず足りていると思われていました。しかし、それだけでは足りなくなってきてしまったのです。すなわち、こうした近代市民法の原則のもとで「展開された自由競争の結果、経済的強者と経済的弱者の対立が生じ、……契約自由の名のもとに事実上の支配関係が生まれるにいたった」のです(伊藤・加藤編 前掲書 157頁)。

 例えば、民法623条には雇用に関する条文があり、そこには「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」と書かれています。この条文を見ると、いくらで雇おうが、どういう条件で労働に従事させようが、当事者の自由であることがわかります。そのことから、立場の強い人(すなわち資本家など)が、立場の弱い人(経済的に困窮している労働者など)に、立場の強い人が有利になる契約を押し付けても、それにたいして立場の弱い人がやむを得ずであったとしても合意した(せざるを得なかった)場合には、その契約は有効となってしまうわけです。そのことから、本来対等な人間どうしが締結する契約が、現実には非対等な私人どうしが締結する「歪んだ」ものになってしまうのです。

 もっとわかりやすく書くとしましょう。私が高校時代に使っていた日本史の教科書には、「工場制工業が勃興するにつれて、賃金労働者が増加してきた。当時の工場労働者の大半は繊維産業が占めており、その大部分は女性であった。女性労働者(女工、または工女とよばれた)の多くは、苦しい家計をたすけるために出稼ぎにきた小作農家などの子女たちで、賃金前借りや寄宿舎制度で工場に縛りつけられ、劣悪な労働環境のもと、欧米よりはるかに低い賃金で長時間の労働に従事していた。紡績業では2交代制の昼夜業がおこなわれ、製糸業では労働時間は約15時間、時には18時間におよぶこともあった」と書かれています(石井進他著『詳説日本史』〔山川出版社、2005年〕282〜283頁)。


 こうした状況によって、立場の弱い労働者たちは人間らしい生活を送ることができなくなってきました。そこで、労働者たちは、自らの生存を守るために、多くの仲間と団結し、多くの仲間とともに使用者と交渉をし、それでも交渉がまとまらない場合にはストライキをおこすという方法を取らざるを得なくなりました。そして、何とか自らが生存できる程度の労働条件を獲得していかざるをえなくなったのです。また、労働者が劣悪な労働条件のもとでも大人しく働いていたとしても、劣悪な労働条件ですから、いつかは体を壊してしまいます。そうした労働者を大量に生み出してしまうと、国にとっては損失となります。貴重な労働力を使い捨てにし続けると、徐々に徐々に労働力はなくなっていきます。使い捨てられた側の労働者は、やけを起こしてしまうかもしれませんから、それによって治安が悪化するかもしれません。こうした危機的状況から、近代市民法原理を修正する必要に迫られてきました。そして生まれてきたものが、労働法をはじめとする「社会法」です。

 社会法の生まれてきた過程からもおわかりかと思いますが、社会法とは、市民法原理を修正するものですから、契約自由の原則を修正するものです。どのように修正するかというと、契約について国家が力を持って干渉するのです。そうすることで、立場の弱い労働者をバックアップし、労働者と使用者を少しでも対等にしようとしているのです。そのため、社会法とは、個人間の契約を国家が干渉して規律するわけですから、公法にも私法にも属さない法体系であるといえるのです。

 社会法には、労働法や社会保障法といったものがあります。労働法は、様々な労働条件などの最低限度はここまでというものを規定したり、労働組合の活動を保障したりしています。社会保障法については、様々な制度がありますが、例えば病気やケガによって働けなくなり収入がなくなってしまったときに保障するもの(健康保険法や年金に関する法律など)や、いよいよ生きていけなくなってしまう程度にまで経済的に困窮してしまった場合の最後のセーフティーネットとしての生活保護制度などがあります。

 これらの法律の根底には、憲法の規定があります。特に25条の生存権といわれる規定(1項には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定されています。)を、具体化したものであるといえるでしょう。ですから、社会法の理念は、生存権の理念といっても、間違いはないのです。


 非常に長く、分かりづらい稚拙な文章になってしまいましたが、以上が「社会法」の説明です。私は、こうした法律を研究しています。労働法に関していえば、「実際に使えない」だとか、「お飾りにすぎない」だとか、「自動車の最高速度よりも守られていない」などと言われる昨今です。しかしその一方で、労働に関する様々な問題がメディアで取り上げられています。名ばかり管理職や長時間労働、残業代未払いなどなど、挙げればきりがありません。「ブラック企業」などという言葉もすっかり定着してしまいました。こうした状況の中、はたして労働法が「使えない」法律であるだけでいいのか、疑問に思うのです。
 最近では、「ブラック企業叩き」といった風潮もあり、企業においては労働法違反の状態を放置しておくことそれ自体がリスクとしてようやく認知されてきたように思います。ですが、単にリスクとして捉えるだけでなく、労働法を遵守し、職場環境を向上させることで、従業員のモチベーションがアップし、各個人のスキルも向上することが考えられ、長期的には企業業績の向上に寄与するものと考えています。企業を実際に動かしているのはヒトです。ヒトをないがしろにしていては、それ以上の企業の発展は見込めない時代となったといえるでしょう。

 このような思いのもとで、社会法を研究をしております。社会法に、少しでも興味を持っていただけたらと思い、当事務所のホームページ内に社会法研究に関するページを作りました。実際に困っておられる方もいらっしゃるかもしれません。このホームページが少しでも困っておられる方のお役に立てればと思います。


2014年6月14日作成
2015年7月25日加筆修正



参考文献 
本文中に挙げたもののほかに
浜村彰ほか著『ベーシック労働法〔第3版〕』(有斐閣、2008年)
加藤智章ほか著『社会保障法〔第4版〕』(有斐閣、2009年)




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